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浦和地方裁判所 平成5年(わ)669号 判決

本店の所在地

埼玉県浦和市道場三丁目二七番一号

代表者の住居

同市曲本四丁目九番一〇号

代表者の氏名

石井良藏

マックス建設株式会社

本籍

埼玉県飯能市本町一三一番地

住居

同県浦和市曲本四丁目九番一〇号

会社役員

石井良藏

昭和一七年三月二日生

本籍

埼玉県飯能市本町一三一番地

住居

同県浦和市大字大門木一五〇四番地の六

会社役員

石井萬二郎

昭和一四年三月三一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官原秀樹及び弁護人河上和雄各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人マックス建設株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人石井良藏を懲役一年に、被告人石井萬二郎を懲役八月にそれぞれ処する。

被告人石井良藏及び被告人石井萬二郎に対し、それぞれ、この裁判が確定した日から三年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人マックス建設株式会社は昭和四六年一二月二四日、東京都中野区内に本店を置き、土木建築の施行等を目的として資本金五〇〇万円で設立された会社で、昭和四八年に本店を埼玉県浦和市内に移し、昭和五四年二月二七日、これを肩書所在地に移転し、昭和五六年一二月一三日、資本金を二〇〇〇万円に変更して現在に至っており、被告人石井良藏は、被告人会社の設立以来、その代表取締役として、同社の業務全般を統轄していた者であり、被告人石井萬二郎は、昭和五八年五月から被告人会社の取締役として、同社の経理等を担当していた者であるが、被告人石井良藏及び被告人石井萬二郎は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、共謀のうえ、

第一  平成元年五月三一日、埼玉県浦和市常盤四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、被告人会社が昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度に納付すべき法人税について、実際の所得が一億四〇〇八万八八五七円であったのに、架空の労務費及び外注費を計上するなどの不正な方法により、その一部を秘匿し、所得金額が六八四六万五八四一円で、これに対する税額が二七三六万八一〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出して納付期限を過ごし、もって、不正行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額の五七四四万二〇〇円と右申告税額との差額の三〇〇七万二一〇〇円の法人税を免れ、

第二  平成二年五月三一日、前記浦和税務署において、同税務署長に対し、被告人会社が平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度に納付すべき法人税について、実際の所得が四億五一二万七九一円であったのに、前記の不正な方法により、その一部を秘匿し、所得金額が二億一二九九万五一三円で、これに対する税額が八四三一万六〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出して納付期限を過ごし、もって、不正行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額の一億六一一六万八〇〇〇円と右申告税額との差額の七六八五万二〇〇〇円の法人税を免れ、

第三  平成三年五月三一日、前記浦和税務署において、同税務署長に対し、被告人会社が平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度に納付すべき法人税について、実際の所得が二億七五三七万五二八〇円であったのに、前記の不正な方法により、その一部を秘匿し、所得金額が二億二三九七万七四六九円で、これに対する税額が八三一六万七〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出して納付期限を過ごし、もって、不正行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額の一億二四四万一三〇〇円と右申告税額との差額の一九二七万四三〇〇円を免れた。

(証拠の目標)

判示全部の事実につき

一  被告人石井良藏及び同石井萬二郎の当公判廷における各供述

一  被告人石井良藏(三通)及び被告人石井萬二郎(二通)の検察官に対する各供述調書

判示冒頭の事実につき

一  浦和地方法務局登記官作成の登記簿謄本二通

判示第一ないし第三の事実につき

一  被告人石井良藏(一三通)及び被告人石井萬二郎(二三通)の大蔵事務官に対する各供述調書

一  本多春次、石井しず子、小島道子及び平井歌子の検察官に対する各供述書

一  本多春次(七通)、石井しず子(二通)、小島道子(三通)、平井歌子(三通)及び石井佑子(四通)の大蔵事務官に対する各供述調書

一  國井光男の大蔵事務官に対する供述調書二通

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  浦和税務署長作成の回答書

一  大蔵事務官作成の調査書一二通

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(自昭和六三年四月一日至平成元年三月三一日)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(自平成元年四月一日至平成二年三月三一日)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(自平成二年四月一日至平成三年三月三一日)

(法令の適用)

被告会社石井良藏及び被告人石井萬二郎の判示各行為は、各事業年度毎にいずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、被告人会社については、更に法人税法一六四条一項にそれぞれ該当するところ、被告人会社については、情状に鑑み、同法一五九条二項を適用し、被告人石井良藏及び被告人石井萬二郎については、所定刑中、いずれも懲役刑を選択し、右各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については、同法四八条二項により、右脱税額を合算し、その金額の範囲内で、被告人石井良藏及び被告人石井萬二郎については、いずれも同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い第二の罪の右所定刑に法定の加重をした刑期の範囲内でそれぞれ処断し、被告人会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人石井良藏及を懲役一年に、被告人石井萬二郎を懲役八月にそれぞれ処し、被告人石井良藏及び被告人石井萬二郎に対しては、刑法二五条一項を適用して、それぞれ、この裁判が確定した日から三年間、その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件各犯行は、三事業年度にわたって行われたものであること、その脱税が多額であり、ほ脱率も高いこと、そのために、日頃から、外注先と通謀して水増し請求を行わせたり、架空の請求書を作成したり、出勤簿に架空の出勤記載を行うなどして準備していたこと、被告人石井良藏及び同石井萬二郎がいずれも、かって暴力団に所属し、処罰歴を有することなどを考えると、事案は悪質で、被告人らの罪責は重いというべきである。

他方、本件各犯行については、被告人石井良藏が、かって被告人会社の資金繰りに苦しんだことが頭から離れず、また、自らの前歴の故に金融機関に対して負い目を覚えていたことなどから、将来に備えて現金を手元に確保したい願望に駆られ、被告人石井萬二郎に指示し、同被告人は更に事業拡大の裏資金を確保することも考えてともにこれに及ぶこととなった様子が窺われ、これによって得た現金の大半は、被告人石井良藏がそのまま自宅に保管していたこと、その犯行事態が単純で、いずれ発覚を逃れ難いものであり、両被告人とも、自ら止めようとしていた様子も窺われること、被告人会社は、本件により、不足税のほか、相当多額の重加算税や延滞税等を課せられ、未だ完納しえない状況にあること、被告人石井良藏及び同石井萬二郎は、いずれも暴力団を離れてからすでに久しく、長い間処罰されるようなことはなく過ごし、被告人会社を通して更生保護事業にも携わり、表彰されてもいたところ、本件審理を受けることとなって相当に反省、悔悟を深めた様子が認められ、被告人会社の委託税理士を変え、経理事務の適正に努めている様子も窺えること、ともに、現在、病いの身で治療中にあること、被告人会社は約一〇〇名の従業員を擁するところ、現在、その営業が厳しい状況下にある様子が窺われること、その元請会社の役員が証人として、被告人らに対する今後の指導を約束したことなど斟酌すべき点も存する。

これらの事情を考慮した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩垂正起)

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